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緊急アピール

教育基本法の基本理念を否定する教育基本法「改正」に反対する

与党教育基本法改正に関する協議会「最終報告」案の問題点

   2006年4月13日、与党「教育基本法改正に関する協議会」は教育基本法「改正」案の最終報告案を出しました。政府はこの与党案に基づき法案作成作業を行い、今国会に教育基本法「改正」法案を提出する方針を打ち出しています。この与党案に基づく教育基本法「改正」が行われれば、現行教育基本法の基本理念は否定され、教育のあり方が根底から変えられてしまう危険性があります。
 与党最終報告案には以下のような問題点があります。

@憲法との関係(現行法、「改正」案前文) 教育基本法は、「日本国憲法の精神にのっとり」その「理想の実現」を行うためのものとしてつくられたものであり、日本国憲法の精神にのっとらない「改正」は、そもそも違憲です。
 「改正」案の前文からは、「われらは、さきに、日本国憲法を確定し」「この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである」という部分は削除されました。日本国憲法と教育基本法の一体性を明示化した箇所がなくなっているのです。そして「日本国憲法の精神にのっとり」は残りましたが、その後、現行法では「新しい日本の教育の基本を確立する」となっているところが、「わが国の未来を切り拓く教育の基本を確立する」へと変えられています。「新しい日本」とは、大日本帝国憲法と教育勅語によって統治されていた戦前の帝国日本との歴史的切断を意味しています。最終報告案は、教育勅語を否定し、帝国日本と決別するという教育基本法の「教育宣言」という歴史的意義を抹消しています。これでは「日本国憲法の精神にのっとり」は、現行の日本国憲法ではなく、政府・自民党が狙う「改正」後の日本国憲法にも適用されてしまう可能性があります。

  A「愛国心」等、人格規範の国家による法制化(現行法第一、二条 「改正」案1、2)
「改正」案(1.教育の目的)では、現行法第一条の「人格の完成」や「平和的な国家及び社会の形成者」「心身ともに健康な国民の育成」は残っていますが、「個人の価値をたっとび」は削られ、「形成者」のあとには「として必要な資質」という言葉が挿入されており、国家にとって「必要な資質」をもった人材育成の意味が強化されています。「個人の価値」は、「改正」案の2に入れられていますが、そもそも、現行法第二条「教育の方針」を(2.教育の目標)に書き換えようとしていることは極めて重大です。第二条は、現行法では教育の目的を達成するための「方針」として、「学問の自由」「自発的精神」などの「自由」を掲げているのに対して、改正案の2は、自由とは逆に「人格の完成」の中身まで、「達成」すべき具体的な「目標」として、「道徳心」「公共の精神」「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する・・・態度」等、あるべき「心」や「態度」を事細かに規定しています。即ち、この「改正」案の大きな問題点は、「愛国心」だけでなく、人格のあるべき姿を国家が規範として法律で決めるという点にあります。本来、憲法二六条が保障する「教育を受ける権利」は、憲法十三条「個人の尊重」一九条「思想及び良心の自由」を必須の条件としてのみ実現されるものであり、「心」や「態度」の法制化は、そもそも法の任務からの大きな逸脱です。既に「大綱的基準」であるはずの学習指導要領の一文のみを根拠に、二〇〇二年には「愛国心」をABC評価する通知表が全国の多くの小学校で出され、「日の丸・君が代」の強制も大量の処分を出しながら広まっています。これが準憲法的な教育基本法そのものの中に書き込まれ、「教育の目標が達成されるよう」(6.学校教育)強制され、その到達度が評価の対象とされるなら、それは、最高裁判決も禁じている「子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような国家的介入」(旭川学力テスト事件最高裁判決、1976)への道を大きくひらくことになります。

B家庭・地域・生涯学習等、国民生活のあらゆる場面への介入(「改正」案2、10、13)
「改正」案では、現行法にはない(3.生涯学習)(10.家庭教育)(13.学校・家庭及び地域住民等相互の連携協力)等が新たに条文化されようとしています。(10.家庭教育)においては、「父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有する」として親の責任は強調しながら、親が子の教育について第一義的権利を有しており、国家による不当な介入をしてはならないことは記されず、「習慣」にまで国家が立ち入って国家が要求することを許しています。そして、(2.教育の目標)に列挙された規範・徳目は、単に学校の中だけでなく、(10.家庭教育)(11.幼児期の教育)から(7.大学)(13.地域)(3.生涯学習)に至る、国民生活のあらゆる場面で達成が求められることになります。

C教育の機会均等の空文化(第三条、「改正」案3)
第三条「教育の機会均等」は、2004年の「中間報告」では、「すべて」「ひとしく」「社会的身分、経済的地位または門地」による差別の禁止などの文言が削除されていましたが、今回の「改正」案ではそのまま残されています。しかし、この間、「教育改革」の名のもとに、「エリートは100人に1人でいい」「非才、無才はただ実直な精神だけを養ってくれればいいのだ」(三浦朱門元教育課程審議会会長)という選別教育のシステムが次々と導入され、教育においても格差社会が拡大してきました。第三条の文言だけ残しても、実質的には以下のDで述べるような教育行政による「改革」実施によって、公教育全体の「教育の機会均等」を保障する基盤は次々に破壊されてきました。既に、全員が一定レベルの教育を受けることができないシステムになりつつありますし、(17.教育振興基本計画)で実行されようとしているのは、まさにこのような競争・序列化、市場原理の導入による新自由主義的な「改革」であり、労働市場の階層化にも見合った人材育成のため、早い段階から子どもを選別的に振り分ける「改革」です。

D教育行政の中央集権的支配の完成(現行法第一〇条、「改正」案16、17)
 現行法第十条にある「教育は、不当な支配に服することなく」という文言は残りました。しかしその後の「国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである」という部分は削除されました。「不当な支配」を受けてはならない教育の主権者である国民の存在が条文から消され、代わりに「教育行政は、国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならない」と教育行政の役割が定められています。そして現行法第一〇条第二項において教育行政の役割を「教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備」と限定した部分を削除し、(2)国は、「教育に関する施策を総合的に策定し、実施しなければならない」(3)地方公共団体は、「その実情に応じた教育に関する施策を策定し、実施しなければならない」ことを明記しています。これは単なる「条件整備」ではなく、国と地方公共団体がそれぞれ教育内容にも介入することを意味しています。「教育水準の維持向上」の名のもとに学習指導要領を大綱的基準から到達目標化し、学力テストや教員評価による序列化と支配が行われます。「不当な支配」の「不当」かどうかを決めるのが、子どもや保護者、教職員という教育現場の当事者=主権者ではなく、行政となってしまうならば、この「不当な支配」の意味は、教育行政や行政による教育内容への「不当な支配」を禁じた現行法から、それらによる教育内容への支配を強化するものへと意味は完全に逆転してしまいます。
 教員の「使命」も、現行法第六条(学校教育)では、「教員は、全体の奉仕者であって、自己の使命を自覚し、その職責の遂行につとめなければならない」として、教員が果たすべき使命が負っている責任の対象が、全体=国民であることが明記されています。しかし、「改正」案(9.教員)では、「全体の奉仕者」は削除され、「自己の崇高な使命」とのみ書かれ、さらには「絶えず研究と修養に励み」「養成と研修の充実」が付け加えられています。現在既に教員は、行政から次々と求められる研修によって、子どもや教員同士の関係から引き離され、教員評価のもと、職務命令に従うことを使命とさせられつつあります。子どもに対しても「学校生活を営む上で必要な規律を重んずる」(6.学校教育)ことが新たに求められています。先日、東京都教育委員会が、職員会議での挙手や採決を禁止する通知を出したことが報道されました。教育は今や、民主主義実現の場から、上から「規律」「修養」「愛国心」を要求される統制の場へと変えられようとしています。
 また、「改正」教育基本法の中に新たに組み込まれた(17.教育振興基本計画)は、具体的教育内容の計画を、教育の現場からほど遠い行政府である「政府」が策定し、「国会に報告」するのみで「公表」し、それを「参酌」して地方公共団体が「施策に関する基本的な計画を定める」となっています。これによって、教育基本法は、準憲法的な理念法から、行政施策法へとその性格が根本的に変えられようとしています。その際、教育は、行政からの独立性を失い、内務行政の一部となってしまいます。そして、地方は、中央で策定した計画を「参酌」し「実情に応じ」計画を定めることが求められることになり、地方分権からはほど遠い、中央集権的従属関係が強化されます。
「教育振興基本計画」は、「学習指導要領」とセットになって、数値目標を含む教育内容を計画・実施・評価させることによって、既に進行しつつある教育における上意下達システム、文部科学省―教育委員会支配を強化・完成させようとするものです。

 教育基本法「改正」の議論は、与党検討会の密室の中で続けられ、4月14日の「最終報告」公表後、2週間で閣議決定・上程し、1ヶ月少しで成立させようとしています。教育基本法第一〇条は、「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである」としていますが、このような「改正」のプロセスは、そもそも「国民全体に対して直接に責任を負って行われ」ていると言えるでしょうか。この「改正」プロセスそのものが、与党による「不当な支配」にほかなりません。私たちは、教育基本法の基本理念を否定する与党最終報告案に基づく教育基本法「改正」に強く反対いたします。


2006年4月26日
「教育基本法の改悪をとめよう!全国連絡会」呼びかけ人
大内裕和、小森陽一、高橋哲哉、三宅晶子

2006年4月26日水曜日20時43分57秒